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春を待つこと。私たち日本人にとってはもちろんのこと、Henning Schmiedtの住むドイツでは、ここ日本よりも暗く長く、そして太陽のない冬があります。 冷たい風が吹き、大地は氷り、地上の色彩は全て灰色へと変わる。多くの詩人たちが残したように、ここでの冬は、あまりにも大きく重く、人々の暮らしへと覆いかぶさります。いつ終わるとも知らない薄明の中で、私たちは春の声を探しながら、残された悲しみと対峙し、暖かな日の記憶を辿っては、心の中で様々な場所へと向かうのです。
雨が上がり、お気に入りの靴を履いて、いつもの森へと歩き始める。Henning Schmiedtがピアノで描く春の日は、子どもの頃の情景であったり、見たこともない夢の中だったりすることに、私たちは鐘が鳴る頃にふと気づくのかもしれません。
ソロピアノ3作品目となる本作『Spazieren』は2010年の冬にベルリンのスタジオで録音。これまでの作品の中でも、最もシンプルに、まっすぐに紡がれたメロディーの数々。『散歩』というタイトルからも想像される通り、柔らかな春の日差しを連想させる爽やかなピアノの旋律、小気味良いテンポ感溢れる小曲集となっています。
当初春に予定されるはずだったこの作品は、3月に起こった東日本大震災によって発売が延期されました。アルバムの最後に追加収録された『Libelle stille andacht 11.3.2011 』は震災後に改めてHenningが追悼の意味をこめて録音したものです。
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